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「残りの雪」立原正秋アーカイブス(1) 


残りの雪 (新潮文庫)残りの雪 (新潮文庫)
(1980/07/29)
立原 正秋

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立原正秋さんの代表作といえば「春の鐘」か「残りの雪」ということになりましょうか。

いずれも発表当時話題を呼んだ日経新聞の連載小説ですが、今日の渡辺淳一さんの恋愛小説のさきがけ、今風に言えば不倫小説です。

多くの男性たちが経済記事を読むをふりしてそっと目を走らせては固唾を呑んでいました。

文学作品としての出来は「残りの雪」に軍配が上がります。

「春の鐘」は作者の気負いが感じられて少し重い作品に仕上がっています。


膨大な立原作品の評価、良し悪しは「ちからが抜けているかどうか」です。

それはゴルフのスイングあるいはバッティングに似ているかもしれません。

ちからが抜け真っ芯に当たったボールははるか彼方に飛んでいきます。

例えば初期作品、芥川賞候補となった「薪能」、ラストで主人公たちのあの心中事件の記述がなければ受賞していたでしょう。芥川賞作家か直木賞作家の分かれ道も「ちからが抜けているかどうか」でした。

ただもしあの時芥川賞を受賞していたらその後の流行作家立原正秋は生まれていなかったでしょうから皮肉です。


さて「残りの雪」は日本経済新聞に昭和48年4月から約1年間連載された新聞小説です。

主人公里子の夫が会社の女性と駆け落ちしたためやむを得ず鎌倉の実家に帰り骨董店に勤めはじめますが、

その骨董店を訪ねる『目利きの男』といわれる坂西と深い仲になっていく物語です。

終盤、

「二人は連れ立って劇場にはいった。

六時開演であったから、観客はもうあらかた席についていた。二人の席は前の方だった。

演じる曲目は一中節の〈松がさね〉筝曲の〈七小町〉、長唄の〈鷲娘〉だった。

『武原はんさんをずうっとごらんになっていらっしゃるのですか』

里子はとなりの坂西に小声できいた。

『いや、そんなには観てないが、なんとなく好きでね』 」


武原はんには「雪」という名舞踊がある。

表題の「残りの雪」とはここからきているのではないか、

この小説そのものが武原はんさんへのオマージュであったのか、と胸にしみた。


立原正秋さんは昭和後期の人気作家でした。流行作家ゆえ世間から誤解の多い作家でしたが、

月日を経て忘れかけている純文学者立原正秋さんの文学史上の立ち位置を検証してみたいと思います。




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